皆さん、こんにちは。綾瀬市にある武内歯科医院です。
インプラント周囲炎とは、インプラントの歯周病です。
しかし、歯周病と違ってインプラント周囲炎は進行が早く、予後が悪くなることが多いため、予防が非常に重要です。
この記事では、歯周病との違いを踏まえ、原因や治療法について詳しく解説します。
目次
インプラント周囲炎とは?
インプラント周囲炎とは、歯周病菌によりインプラントの周辺組織が炎症を起こしている状態のことをいいます。
インプラントの歯は天然歯に比べて抵抗力が弱いため、一度細菌感染を起こすと急速に骨吸収が進行します。自覚症状が出にくいため、気付いたときには重症化していることがほとんどです。
インプラントはチタンやセラミックなどでできているため、虫歯にはなりません。
しかし、インプラントの周囲にある歯肉や骨が細菌感染を起こすと、歯周病と同じように炎症が起きて顎の骨が溶かされます。日本歯周病学会からは、インプラント埋入後3年以上で9.7%の人がインプラント周囲炎を発症したという研究報告が出されています。
参照:歯周病患者における口腔インプラント治療指針およびエビデンス 2018
インプラント周囲炎と歯周病の違い
インプラント周囲炎と歯周病の症状は同じですが、進行速度や重症化するリスクが違います。
天然歯には、歯と歯槽骨の間に「歯根膜」という膜が存在します。歯肉や顎の骨に血液を供給し、栄養補給の役割を担っています。一方、インプラントには歯根膜がないため、周辺組織の免疫力が低下し、感染しやすい状態になっています。また、天然歯は、歯根膜があることで歯肉と骨が密着している状態になり、細菌の侵入を防いでいます。歯根膜がないインプラントは、歯と歯肉の間に隙間ができやすく、細菌が入りやすい状況になっています。インプラントは構造上、天然歯よりも感染しやすく重症化しやすい特徴があり、インプラント周囲炎の進行速度は、歯周病の3倍ともいわれています。
さらに、歯周病とインプラント周囲炎では歯周病菌を構成する細菌の種類や比率が多少異なることがわかっており、インプラント周囲炎に歯周病の治療を行っても、あまり効果がありません。これがインプラント周囲炎は歯周病よりも難治性が高いといわれている理由です。
インプラント周囲炎の症状
<進行度別 インプラント周囲炎の症状>
進行度 | 症状 |
---|---|
軽度
|
歯茎が腫れ、押すと出血する。 |
中等度 |
歯茎から膿が出て、口臭が発生する。 |
重度 |
歯茎が下がり、インプラントが露出したり、グラグラして不安定になったりする。痛みが出ることもある。 |
インプラント周囲炎は、初期の段階では痛みはありません。自覚症状が乏しいのが歯周病およびインプラント周囲炎の特徴です。
軽度では、歯周ポケットにプラーク(歯垢)が溜まり炎症が起きている状態で、骨の破壊はまだ起きていません。
中等度は、歯槽骨まで炎症が広がって膿が出てきます。
重度になると、歯槽骨の吸収に伴って骨に炎症が起きているため、痛みを感じる場合があります。歯茎が痩せてしまい、インプラントが露出することもあり、最終的にはグラグラして抜け落ちることがあります。重度のインプラント周囲炎になると、ほとんどの場合インプラントを除去しなければなりません。
インプラント周囲炎の原因
インプラント周囲炎の原因は、歯磨きやメンテナンスを怠ることに加え、生活習慣や持病なども関係しています。
ケアを怠る
「歯磨きを毎日行わない」「ブラッシングが雑」などが原因でインプラント周辺に汚れが溜まると、細菌が増殖して、インプラント周囲炎を発症します。歯科医院への通院も怠ると、発症リスクは高くなります。
プラークは歯磨きで落とせますが、プラークが固まった歯石は歯科医院のクリーニングでないと落とせません。歯石は歯周病の原因になるため、定期的に除去する必要があります。
喫煙習慣がある
タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させる作用があるため、血流が悪くなります。血流が悪くなると、酸素や栄養素が行き届きにくくなり抵抗力が弱まり、インプラント周囲炎を発症するリスクが高くなります。
さらに、傷を治す細胞の働きも阻害してしまうので、炎症が起きた場合は治りにくくなるという特徴があります。
糖尿病や貧血がある
糖尿病は血糖値が高くなる病気ですが、血糖値が高いと細菌に対する抵抗力が弱くなります。タバコと同様、傷が治りにくい性質もあるため、病気になった際は治りが遅くなる傾向があります。血液は、栄養や病気を治す白血球を全身に運んでくれる役割がありますが、血液の量が不足する貧血の場合、免疫力が低下して感染しやすい状態になります。
上記のような免疫力を低下させる疾患をもっている方は、インプラント周囲炎になりやすいため、注意が必要です。
歯ぎしりや食いしばりの癖がある
歯ぎしりや食いしばりは無意識に起こっていることが多いですが、歯や顎の骨に非常に大きな負担がかかっています。負荷は体重の2〜3倍ともいわれています。
歯周組織が損傷すると炎症が起きやすくなり、インプラント周囲炎を発症することがあります。
歯周病が完治していない状態でインプラントを治療を受けた
インプラント治療を受けるにあたって、歯周病がある場合は事前に完治させなければなりません。インプラントは、細菌に感染すると複雑な治療が必要になるため、埋め込む前にさまざまなリスクを取り除いてから治療を開始します。
インプラント周囲炎を放置してしまうとどうなる?
インプラント周囲炎を発症すると骨が溶けていくため、最終的にインプラントが抜け落ちます。歯周病菌がインプラント周囲にとどまらず、ほかの歯にも感染を広げていくと、多くの歯が歯周病を発症することになります。インプラントがグラグラして不安定になっている場合は、噛み合わせにも影響が出るでしょう。噛み合わせが悪いと一部の歯に負担が集中するため、歯が欠けたり割れたりする場合があります。
インプラント周囲の組織が破壊されてしまうと、完治が難しく、処置やメンテナンスを徹底的に行ったとしても維持できる確率は60%程度しかありません。インプラント行なっている場合は、感染を防ぐことが非常に重要です。
日本歯科医学会厚生労働省委託事業によると、インプラントの生存率は埋入後10〜15年で上顎が約90%、下顎が約94%との報告が出されています。日頃から適切に対策ができていれば、長期にわたってインプラントを維持することができるでしょう。
参照:厚生労働省委託事業「歯科保健医療情報収集等事業」歯科インプラント治療のための Q&A
インプラント周囲炎の治療法
インプラント周囲炎の治療法は、歯周ポケットに薬剤を注入または内服する「非外科的治療」と、歯肉を切開して手術を行う「外科的治療」の2種類があります。
それぞれ解説していきます。
非外科的治療(骨の吸収が軽度の場合)
- 歯周ポケットの掃除
- 薬剤またはレーザーで細菌を死滅
- 抗生物質で炎症を抑制
- 歯磨きや生活指導
PMTC(プロフェッショナル・メディカル・ティース・クリーニング)で、歯周ポケットに溜まったプラークや歯石を取り除きます。インプラント周囲炎が軽度の場合は、治療はここまでです。
細菌の感染がさらに広がっている場合は、歯周ポケットに薬剤を入れ、殺菌作用のある薬剤を使ってうがいすることで、口内全体の細菌を死滅させます。薬剤だけでなく、PDT(光線力学療法)と呼ばれるレーザーを用いて殺菌する方法もあります。
さらに、炎症を抑えるために抗生物質を歯周ポケットに注入し、帰宅後も一定期間薬を内服する必要があります。
最後に、適切な歯磨きの方法や、歯ぎしりや全身疾患を持ち合わせている方には生活指導も行います。
外科的治療(骨の吸収が進んでいる場合)
- 歯肉切開
- 骨の再生
骨の吸収が進んでいる場合は、インプラントに直接アプローチする必要があるため、歯肉を切開します。薬剤や専用の機器を用いてインプラントの表面を掃除し、殺菌します。
骨の吸収が進行して骨の再生が必要な場合は、骨移植やメンブレンで覆って骨の再生を図ります。メンブレンは、骨の再生を促す人工膜です。
上記の治療法でインプラント周囲炎が改善されない場合は、インプラントを除去しなければなりません。
インプラント周囲炎を起こさないために
インプラント周囲炎を起こさないためには、口内を清潔に保つことです。また、感染しにくい体づくりも重要です。
セルフケアを徹底する
毎日丁寧にブラッシングをしましょう。歯ブラシは毛先が細いものを使用すると歯周ポケットに届きやすいです。また、歯の表面だけでなく、歯周ポケットの中の汚れを掻きだすように磨きましょう。
磨き方のポイントは、歯茎に対して歯ブラシを45度に当て、小刻みにブラッシングします。歯間ブラシやフロスは、歯ブラシだけでは落としにくい歯と歯の間の汚れも落とすことができるのでおすすめです。
歯科医院でブラッシング指導も行っているので、通院の際に聞いてみるのもよいでしょう。
歯科医院でメンテナンス
インプラント治療は埋めて終わりではありません。天然歯よりも細菌感染しやすいことから、治療後は定期的に歯科医院でのメンテナンスが必要です。セルフケアだけでは落としきれない汚れもあるため、3か月に1回を目安にクリーニングを受けるようにしましょう。
メンテナンスでは、クリーニングだけでなく、レントゲンで顎の骨の状態も確認してくれます。インプラントのネジの固定が緩んでいないか、噛み合わせによってインプラントに過剰な負荷がかかっていないかなども判断してくれるので、安心できるでしょう。
インプラントの構造上、細菌が奥深くまで入り込んでしまうと完全に除去することは難しいため、天然歯よりも予後が悪くなることが多いです。インプラント周囲炎の予防に加え、早期発見にもつながるため、定期的に歯科医院でメンテナンスを受けるようにしましょう。通院が続けられるように、通いやすい歯科医院を選ぶことも大切です。
禁煙
喫煙は、タバコに含まれる成分によってインプラント周囲炎を発症するリスクが上がります。禁煙は全身の健康にもつながるため、まずは喫煙本数を少なくし、必要であれば禁煙外来を受診するとよいでしょう。
生活習慣の改善
糖尿病や貧血などの持病がある方は、感染しやすいうえに、治りも遅くなります。また、食生活が乱れていたり疲れが溜まっていと、免疫力が下がり、細菌への抵抗力が弱くなります。栄養バランスのとれた食事や十分な睡眠時間を確保しましょう。免疫力を上げるには、ストレスを溜めないことが非常に重要です。
さらに、食事の際は噛む回数を増やしましょう。唾液は噛むことによって分泌が促進されます。唾液には、口内の汚れを洗い流し、殺菌する効果があります。インプラント周囲炎を予防するには「ふだんよりも多めに噛むこと」を意識しましょう。
まとめ
インプラント周囲炎は自覚症状が乏しいため、進行に気付きにくいのが特徴です。進行速度が早く、予後が悪くなることが多いため、手遅れにならないよう早期発見・早期治療が大切であるといえます。インプラントの寿命を延ばすためには、ふだんから丁寧に歯を磨き、定期的に歯科医院を受診しましょう。
インプラントでお悩みの方や不明点がございましたら、神奈川県綾瀬市にある武内歯科医院にお気軽にご相談ください!