“親知らず”は、何故?抜かなければならないの?
親知らずとは、永久歯の中で遅い時期(20歳前後)に生えてくる8番目の歯(大臼歯)です。
しかしその多くは、歯が生えてくるためのスペースが足りず、半分埋まっていたり、完全に埋まったままになっているタイプがあります。
親知らずがお口の中で一部分だけ露出している状態にある場合は、ブラッシングがしにくく、隣の歯との隙間に歯垢、細菌が溜まることで虫歯や歯周病になったり、炎症を起こし智歯周囲炎という痛くて腫れあがってしまう症状を示すことがあります。
親知らずを抜く理由は、概ね2つあります。
①斜めや半分埋まってる為に、親知らずの周囲にバイキンが溜まって炎症を起こすのです。
消炎治療して炎症が治まったタイミングで親知らずを取り除いておく必要があります。
さらに、X線 写真(図1)の様に 親知らずが横になっていたり、斜めに生えている為に、隣にある大切な7番の背後には骨がありません。しかし親知らずを取り除いておけば、その空間が骨で置き換わります。親知らずの位置が悪い為に、隣の歯の骨がありません。こうしたケースでは、親知らずをより除くことで骨を作るのです。
図1
②親知らずを取り除き、骨を作る目的で抜くのです。
親知らずを抜くとき、普通の“歯を抜く”処置とは大きく異なります。
いわば顎の骨の中の手術ですから、先ずは、お口の中の歯周病など感染状態を無くして、口腔内を清潔な状態にしてから手術を行います。親知らずが、正常に生えており、他の歯と同じように機能している場合は、当然のことですが抜く必要はありません。
図2
親知らずの抜歯
→腫れますか?
結論から申しますと「腫れた」と感じない手術は可能です。
腫れをごくわずかに、抑える方法はあります。
コツがあるのです。
手術後の腫脹(腫れ)の程度は侵襲度(手術による体への負荷≒手術の大きさ)・手術時間・と関連します。
この手術の大きさとは、親知らずの抜歯手術に限って言えば埋まっている歯の位置・埋まり方・埋まっている角度・骨との癒着の程度と関連します。
一般的には若年者(10代~20代)は骨が柔らかく、抜歯を受けやすい(患者さんが楽に感じる)ケースが多いです。手術時間は約30分です。
10代~20代の方
手術時間は約30分です。
成人~壮年30~50代
(親知らずの抜歯を希望される方の多くがこの年代です。)
の方は10代の場合と比較すると手術時間が10分程度長くなります。
60代~
(低侵襲を最優先事項に手術を行います。10代の方と比較すると手術時間は10分~15分程度長くなります。)
ここで、手術のコツについてお話します!
切開の位置・組織を剥離する操作や量・縫い方・縫う糸の選択・使用する器具の選び方・切開する量・骨をさわる場合は削る量・摘出物を削る量・薬剤の処方内容
これらすべてのバランスを高いレベルで成立させることで“腫れない”“痛くない”手術を心掛けます。
智歯(親知らず)の抜歯について
親知らず(智歯)の埋まっている位置によって難易度が変わってきます。
親知らず(智歯)の埋まっている角度によって難易度が変わります。
(下顎)下あごの親知らずの抜歯方法。
智歯抜歯手術の難しさ
下歯槽神経・舌神経 障害のリスク
レントゲンを見てみると親知らずの下にトンネルの様な構造物があるのを、みる事があるかと思います。
これは下顎菅といい、内部に神経と血管がはいっています。
通常、こういった深い場所を触ることは手術操作上、基本的にはあり得ないのですが、智歯(親知らず)の根の先端が脱臼する際(歯が抜けてくる)に神経管を圧迫する事があります。
その際に痛みを感じたり、術後に唇の感覚が痺れているような症状が出現する事があります。
(歯科で注射の麻酔を受けた後の様な感覚です。)
その他、舌神経という舌の感覚をつかさどる神経が、智歯の舌側を走行しています。通常は下方に位置しているのですが、希に(アジア人の数%)浅い位置を走行しています。切開線下にあった場合損傷リスクがあります。
いわゆる神経障害のリスクは約1%前後と言われています。
神経は自己再生能力(回復する能力)がありますが、極めて困難な抜歯の場合は神経障害が残る可能性もあります。
※感覚神経ですので、顔が歪んだり表情筋に影響が出る事はありません。
智歯(親知らず)抜歯のリスク
- 知覚神経障害:1%前後の発症リスク
瘻孔形成 - 術後の痛み→難しい抜歯ほど痛い。
痛み止めで対応。
痛みのピークは抜いた日の夜。 - 術後の腫れ→難しい抜歯ほど腫れる。
腫れのピークは2日目くらい。 - 抜歯後感染→口腔内の雑菌が傷口に入り込むことによる。
抗生物質を使って予防するが、それでも感染することがある。
術後に本人が口腔内の衛生状態の向上に努めることが大切。
何日たっても「痛みがとれない」「腫れが引かない」ときは抜歯後感染を疑います→早めに相談してください。
※経過が良好か否かは術後1~2日の間に、血餅(血のり)が骨の表面に維持できるか否かが大きく関連してきます。
そのため、当日~2日間は“強いうがい”“喫煙”“傷口にシャワーをあてる”などの行為は避けてください。
血餅保持がうまくいかなかった場合、創部にお口の中の細菌が感染する事で“ドライソケット”という状態になる可能性があります。
これは、主に上記の理由で抜歯窩(歯が埋まっていた骨)周囲の骨の表層が壊死してしまう事によって生じる症状のことを指します。
上顎智歯(上あごの親知らず)の抜歯の方法
埋伏の状態によって難易度が変わります。
←粘膜を切開すれば、骨を削らなくても抜歯出来る症例
←骨に完全に埋伏している場合は、粘膜切開後、ノミとマレット(とんかち)で薄い骨を削り、智歯を明示してから抜歯します。
上顎智歯抜歯の難しさとリスク
下顎に比べると視野が悪いため、上顎の埋伏智歯抜歯は難しくなることがある。
←上顎骨の薄さによっては、上顎洞に穿孔(穴が開く)可能性がある。この場合は、蜜に縫合することによって穴を塞ぐ「瘻孔閉鎖術」を併用する場合がある。
抜歯後に
「水を飲むと鼻に水が抜ける感じがする」場合には瘻孔を形成している可能性があるため、早めに相談してください。
- Q:
- 骨を削って大丈夫ですか?
- A:
- 親知らずを支えている部分の骨を少し削るだけなので、これによる後遺症(顔の形が変わる)などはありません。
- Q:
- どのような治療計画になりますかか?
- A:
- 初診日→術前の口腔ケア→抜歯の日程を決める(30分を超える抜歯の場合はアポイントを揃えなくてはならないため初診日は抜歯出来ません)。
抜歯は30分の手術枠で行ないます。
1~2日後以内に消毒。
1週間後に抜糸です。
- Q:
- 術後数ヶ月後にひきつれるようなツッパリ感が生じました。
- A:
- 術後に瘢痕(はんこん)が生じる事があります。大体、3ヵ月~半年程度がピークでその後徐々に柔らかくなります。特に歯茎はひきつれ感を感じやすいと思います。
希望があれば瘢痕を消す薬を処方します。私武内も気長に服用する事でケガをした部位が目立たなくなりました。